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政策部長談話



 2歳未満の脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(一般名オナセムノゲン アベパルボベク)(ノバルティスファーマ)が、5月13日の中医協総会において、バイオジェン・ジャパンのSMA治療薬「スピンラザ髄注」(一般名ヌシネルセンナトリウム)を比較薬とした類似薬効比較方式(Ⅰ)を用いて、国内最高の1億6千7百万円(1患者当たり)の薬価で収載されることが了承された。遺伝子治療はじめ安全性・有効性が確認された治療薬は、速やかに保険収載されることが不可欠だが、公正で透明な算定過程に基づき適正な薬価で収載されることが必要である。

 ゾルゲンスマの販売に関わって、ノバルティスは、ゾルゲンスマの開発元であるアベクシスを9千3百億円(87億ドル)で買収している。米国における2億3千万円の価格よりは低いものの、今回、1億7千万円近い薬価であり、ノバルティスがゾルゲンスマの製造開発に要した原価というよりも、買収額を回収するための費用などに高い利益を上乗せして薬価を申請するマネーゲームの所産との疑いが拭えない。「ゾルゲンスマの製造原価は(米国の)2億円の販売価格と比較して、ずっと廉価であることは間違いない」との専門家の指摘がある。この専門家は米国の非営利経済評価機関ICERによるスピンラザとゾルゲンスマの費用対効果評価分析を用いて両者の適正とすべき価格を再計算しゾルゲンスマの適正価格は1100万円~1980万円前後になるとも指摘している。

 私たちは国民医療の向上を求めて活動する医科・歯科保険医約1700人の医療改善運動団体である。医学の進歩により今まで救われなかった患者が救われることはこの上ない福音である。わが国には保険証1枚で、わずかの自己負担で最善最新最高の医療を受けられる国民皆保険制度が存在する。これは世界中から称賛されている制度である。今、この国民皆保険制度が超高額医薬品の登場によってその存在が危うくなっている懸念が指摘されている。政府高官の「ビックリスクは保険でスモールリスクは自費で」との発言に示されるように社会保障抑制政策が進められている。医療費の窓口負担や介護利用料の引き上げ、保険のきく範囲を狭めることなどを招き、医療・介護を受けられない人を増やし国民の健康を脅かすことに繋がっている。超高額薬品の登場は国民皆保険制度を形骸化し営利民営化に進みお金のある人だけが良い医療が受けられるという命の選別化がおこる懸念がある。最も大切なことは、何故これほど超高額であるかという事でありその内訳が国民の前に明らかにされる必要があるが依然ブラックボックスのままである。

 新薬の薬価算定過程については、算定案を検討・策定する審議は非公開であり、議事録も作成されず、算定薬価を決める中医協には審議概要の結果が示されるにすぎない。中医協委員からも、1千万円超の上乗せとなる「先駆け審査指定制度加算」の適用をめぐり疑義が相次ぐなど、公正で透明な算定過程とは言い難い。税・保険料、患者負担で成り立つ公的医療保険制度の下、営利企業である製薬メーカーの過度な利潤追求を適正化することは行政の責務である。しかも、コロナウイルス対策に関わり医療機関に対して強力な人的・物的・財政的支援が緊急に求められる中、財源を過剰な薬価に充てることは到底認められるものではない。ゾルゲンスマについて、情報の開示・公表に基づく適正な薬価算定が必要であり、大幅に引き下げることを求める。

(2020-6)