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どうする!?患者トラブル
~アンケートと会員研修会から考える~
 医療は、患者と医師・歯科医師の信頼関係に基づく「共同の行為」である。医師・歯科医師は、患者の立場を尊重し患者自らが最良の選択を行えるよう患者に必要な情報や専門的知識、技術を提供する必要がある。このような努力を最大限払っているにもかかわらず、患者トラブルが多く発生していることに、多くの会員の先生方はとまどっておられる。

半数近くが患者トラブルを経験


 今年1月に起きた歯科医師殺害事件を受け、当会は「歯科医師殺害事件に対し強い憤りを表明するとともに、医師・歯科医師と患者の真の信頼回復構築を目指すための声明」を発表し、患者トラブルに関する会員アンケートを行った。アンケートは305人から回答を得、回答率は18.1%であった。極めて関心が高いことをうかがわせる数字であり、その内容は大変興味深いものであった。
 「患者トラブルの経験がある」は47.9%であり、そのうち「金銭的な要求をされ、支払ったことがある」は26.0%。予想以上に多い結果であった。そのうち「警察、医師会、弁護士などに相談せず自分で対処した」が8人おられた。「暴力を振るわれた経験がある」は10.3%で、これも驚くべき数字である。「自分で対処」は5人であった。「調停もしくは裁判になって争ったことがある」が15.1%。また、「今後、金銭的な要求を受けた場合どのように対処するか」には「自分で対処する」が18人おられた。
 これらの結果は、同様の事件に遭遇する危険と背中合わせにいる会員が大勢おられ、一人で悩んでおられる孤独な姿を浮かび上がらせていると言える。(図表参照)

患者トラブルには組織で対応を


 5月28日には、このアンケート結果も踏まえて「なにわのトラブルバスター」の異名を持つ大阪府保険医協会事務局参与の尾内康彦氏による会員研修会を開催し、98人の参加があった。アンケートには会員の体験事例、講師への質問、協会への要望などが寄せられており、尾内氏は講演の中でこの質問にも回答された。
 「患者の要求水準が細かく高いので、大病院を勧めることがあるが、診療拒否と言われることがある」という事例に対し、「診療拒否と言われてもどうということはない。応召義務の解釈が大事だ」「応召義務を制限できる相手とは、医師法第19条との関わりで出された通知(特に昭和24年通知)の範囲だけでなく、モンスターペイシェントやハードクレーマーの一部も含んでいると考えて差支えないと判断できる」と回答された。
 「警察との付き合い方、相談の仕方は」という質問には「警察はどうせ民事不介入だろうと思わず、日頃からもう少し相談をしておくとよい。警察からも、警察が動きやすいように持って行ってほしいとのアドバイスを受けている。警察は敷居が高いと思わないこと」とのことであった。
 「トラブルが生じた際に相談する相手は?弁護士、保険会社、医師会・歯科医師会はどうか?」との質問に対し、「保険医協会や警察等にも相談すること」と組織で対応することの大切さを強調し「岐阜協会を通じてでもいいので、大阪協会の尾内宛に連絡してほしい」とも言っていただいた。

患者トラブルには社会的背景がある


 尾内氏は、患者トラブル増加の背景を4つの側面から分析された。
 先ず、第一に社会情勢の面において。新自由主義に基づく90年代以降のグローバリゼーションの本格的展開によって、日本も市場原理主義万能の考え方が蔓延したこと。
 第二に医療費抑制策など医療制度面。社会情勢の流れと軌を一にして医療制度・医療行政の大幅な見直しが進められ、「自助努力」「相互扶助」に重きをおき、「財政再建」の名のもとに、患者負担増、医療費抑制政策が継続されてきていること。
 第三に医療従事者の面。誤った患者至上主義のもと「患者さま」という呼称の普及などにより医療にも商取引における「最も少ない代価で最も価値ある商品を手にする消費者」の意識が浸透したこと。
 第四に患者の面。患者と医療側のギスギスした関係は、患者に医療に対する誤解がある中で説明不足など不満を感じることが生じると、すぐに「一触即発」となる現状であること。
 患者トラブルが生じるようになった背景にはこのような歴史的必然性が存在すると理解すると眼前の出来事がよく見えるようになる。尾内氏は単なる断片的な知識での対応スキルではなく、この心構えこそが重要であると説かれた。

社会保障充実を求め会員に頼りにされる協会に


 医師・歯科医師と患者さんとの信頼関係は、医療の基本である。岐阜協会は、今回の痛ましい事件を二度と起こさないためにも、必ず教訓をくみ取るとともに、国民医療の向上を願い、日常診療に全力を尽くし社会保障の充実を求める運動を推進する。会員のみなさま、患者さんとのトラブルでお困りの時は是非、保険医協会へご相談いただきたい。保険医協会は会員のみなさまの頼りになる存在でありたいと願っている。

(副会長 竹田智雄)

(会員研修会資料をご希望の方は協会事務局へご連絡を。質問への回答も多数掲載されています。)

(岐阜県保険医新聞2017年7月10日号)